マンキュー経済学 マクロ編 -15-
-総需要と総供給-
この章では経済活動の短期的変動を「総需要と総供給のモデル」を利用して分析していく。
①経済変動に関する三つの重要な事実
1.経済変動は不規則で予測不可能である。
経済の変動は景気循環と呼ばれるが、循環という言葉からは想像しにくいことにその変動は予測不可能である。
2.ほとんどのマクロ経済の数量は同じように変動する。
実質GDPは経済の短期変動を監視する際に最も共通して利用されている変数である。変動の大きさは異なるが、ほとんどのマクロ経済変数は同じように変動する。投資は平均するとGDPの約1/7を占めるが、景気後退時には投資の減少がGDPの減少の2/3を占める。つまり、経済悪化の原因の大半が新しい工場と住宅と在庫への支出の減少である。
3.産出量が減少すると失業が増加する。
実質GDPが減少するときには、失業率が上昇する。企業が財・サービスの生産量を現象させるときには、労働者を解雇し、その結果失業者が増大するからである。
②短期の経済変動の説明
まずは短期と長期の違いを考えよう。これまでの分析は、古典派の二分法と貨幣の中立性という二つの関連する考えに基づいていた。これはつまり、貨幣供給の変化は実質変数に影響を与えない、ということを意味していた。これは長期では成立するが、短期ではそうではない。短期においては名目変数と実質変数は複雑に絡み合っている。
・経済変動の基本モデル
短期の経済変動を「総需要と総供給」を用いたモデルで考察する。
これは単に市場需要と市場供給の拡大版ではない。なぜなら「財Aが高いときは財Bを買おう」とか、「財Aが高いから労働力を増やして供給を増やそう」といったミクロ経済学でいう代替性は不可能なのだ。それではなぜ総需要と総供給の曲線はこの傾きを持つのだろうか。
③総需要曲線
総需要曲線は右下がりである。あの恒等式を思い出そう。
Y=C+I+G+NX
右辺の四つの構成要素はいずれも財・サービスの総需要に寄与している。
・消費(C)
物価水準の下落によって、消費者はこれもでよりも豊かになったように感じ、支出を増やそうとする。
・投資(I)
物価水準が下落する→家計が財を購入するのに必要な貨幣保有量が減少する→余分な貨幣を貸付に回す→貸付資金が増え利子率が低下する→企業や家計は投資のための借り入れを増加させる。
・純輸出(NX)
アメリカの物価水準の下落によってアメリカの利子率が低下すると、実質為替相場が減価する。このドルの減価はアメリカの純輸出を刺激し、それによって財・サービスの需要量が増加する
④総供給曲線
総供給曲線の傾きは、「長期では垂直で短期では右上がり」である。
・なぜ長期では垂直なのか
長期では、経済の財・サービスの生産は、資本と労働と天然資源の供給と、これらの生産要素を財・サービスに変換する技術に依存する。物価水準はこれらの変数に対して影響を与えないため、長期の総供給曲線は垂直になる。
そしてその供給量は潜在的産出量や完全雇用産出量と呼ばれる。もしくは自然産出量水準と呼ぼう。
このモデルにおいて、貨幣供給の成長(総需要の右方シフト)と技術進歩(総供給の右方シフト)が物価水準と産出量の向上をもたらす。
・なぜ短期では右上がりなのか
これから三つの理論を示すが、共通するテーマとして「物価水準が人々の期待する物価水準から乖離すると、供給量は長期的水準から乖離する」というものがある。
1.硬直賃金理論
名目賃金は短期においてはゆっくりと調整される。つまり「硬直的」であるため、短期の総供給曲線は右上がりになる。
2.硬直価格理論
予想外の物価水準の下落があった場合、望ましい水準よりも高い価格をつける企業が出てくることになる。望ましい水準よりも価格が高いため、その企業の販売高は減少し、その企業は財・サービスの生産量を減少させる。
3.誤認理論
物価水準が下落すると相対価格が一時的に誤認され、誤認した供給者は物価水準の下落に反応して財・サービスの供給量を減少させる。
⑤経済変動の二つの原因
このモデルを使って経済の短期変動の基本的な二うの原因を考察してみよう。まず、経済は最初に長期均衡にあるとする。
・総需要曲線シフトの影響
何らかの要因で総需要曲線が減少する→産出量が短期において減少する→時間が経つにつれて短期の総供給曲線が右方にシフトし→産出量は自然水準に戻る
つまり、A:短期では物価下落&産出量減少 B:長期では更なる物価下落&自然産出量に戻ることを意味する。
・総供給曲線シフトの影響
何らかの要因で総供給曲線が減少する→産出量は減少し→物価水準が上昇する
このような状況は「不況(スタグネーション、産出量の減少)」と「インフレーション」を同時に経験することから、スタグフレーションと呼ばれる。この場合、政策立案者は金融政策と財政政策で総需要曲線をシフトさせようと考える。こうすることで、更に物価水準は上昇するが、産出量は自然産出量水準へ戻る。