マンキュー経済学 マクロ編 -17-
長期的にみればインフレ率と失業率は相関関係にはない。自然失業率は労働市場の様々な特性に依存する一方で、インフレ率は中央銀行の貨幣供給成長に主に依存したからだ。しかし短期となると話は別である。
フィリップス曲線は、インフレ率と失業率の間にみられる短期的関係である。
フィリップス曲線は総需要曲線のシフトによって一国の経済が短期の総供給曲線に沿って動くときに生じる、インフレ率と失業率の短期の関係を示しているにすぎない。つまり、
財・サービスに対する総需要の増加→短期的な財・サービスの生産量の増大と物価の上昇→雇用の拡大→失業率の低下
というメカニズムが働いている。これがフィリップス曲線の正体である。
②フィリップス曲線のシフト
・長期のフィリップス曲線
長期においてはこのフィリップス曲線は垂直になる。つまり、インフレ率と失業率の間には相関関係が見られなくなる。これは古典派の貨幣の中立性の議論に基づいている。つまり、長期においては金融政策ではなく、自然失業率に働きかける政策が生産量の増大において重要になる。
・期待と短期のフィリップス曲線
これをを理論化するために「期待インフレ率」を導入する。これは一般物価水準がどれだけ変化するかに対する人々の予想を測る尺度である。
短期において中央銀行は期待インフレ率(短期の総供給曲線)は所与のものとみなす。貨幣供給量が変化すると、総需要曲線がシフトするので、経済は所与の総供給曲線に沿って移動する。
長期においては人々は中央銀行が引き起こすインフレ率を完全に予想することができる。よって賃金・価格・認識はインフレ率に合わせて調整されるので、長期の総供給曲線は垂直になる。
これは以下の方程式にまとめることができる。すなわち、
となる。長期においては実際のインフレ率=期待インフレ率となるので、失業率=自然失業率となる。
この写真において、①短期フィリップス曲線(期待インフレ率・低)②短期フィリップス曲線(期待インフレ率・高)③長期フィリップス曲線となる。
③フィリップス曲線のシフト:供給ショックの役割
世界石油価格上昇のような供給ショックはスタグフレーション(物価上昇&生産量減少)をもたらす。これは失業率を増加させ、物価を上昇させるので、フィリップス曲線は右方へシフトすることになる。もしも人々の期待インフレ率が変化しなければ、それは人々がこれを一時的なものとみなしたことを意味し、曲線はもとに戻る。しかしもしも期待インフレ率が上昇すれば、フィリップス曲線の右方シフトは継続する。
④インフレ率を低下させることの費用
・犠牲率
インフレ率を引き下げるには、中央銀行が緊縮的な金融政策を行う必要がある。つまり貨幣供給量を減らすのである。しかしこれに対して国家は、高い失業率と低い生産量の期間に耐える必要がある。
失業率が増える→インフレ率を下げる→期待インフレ率が下がる→自然失業率まで回復する
というプロセスを辿る。
・合理的期待と費用のかからないインフレ抑制の可能性
合理的である人々は、政府が低インフレ政策をとるという信頼できるコミットメントをすれば、直ちに彼らのインフレ期待を修正する。これによってコストを抑えてインフレの抑制ができるかもしれない。