マンキュー経済学 ミクロ編 -5-

-弾力性とその応用-

弾力性は、市場の状態の変化に対する売り手と買い手の反応の度合いを測る尺度である。この概念を導入することで、より精緻な需給メカニズムの分析が可能になる。

 

①需要の弾力性

需要がその決定要因の変化に対してどれくらい反応するかを特定するために、弾力性の概念を用いる。

需要量が価格の変化に対して大きく反応するとき、その財への需要は弾力的であり、そうでないときは、その財への需要は非弾力的であるという。では需要の価格弾力性を決定する要因にはどのようなものがあるだろうか。

 

1.密接な代替財の利用可能性

密接な代替財をもつ財ほど、需要の弾力性が大きくなる傾向がある。消費者は簡単にその財から他の財へと切り替えることができるからだ。

2.必需品とぜいたく品

必需品は非弾力的であり、ぜいたく品は弾力的である。

3.市場の定義

広く定義された市場では代替財が見つかりにくいので、非弾力的である。逆に狭く定義された市場では代替財が見つかりやすいので、弾力的である。

4.時間的視野

時間的視野が長いほど、財に対する需要は弾力的になる傾向がある。

 

需要の価格弾力性は

 

需要の価格弾力性=需要の変化率/価格の変化率

 

で求める。需要の価格弾力性は負の値になるため、絶対値を用いてこれを表す。

しかしこの計算方法の問題として、A→Bへの弾力性と、B→Aへの弾力性が異なってしまう場合がある。この解決方法として、中間点の方法がある。これは

 

需要の価格弾力性=(Q2-Q1)/[(Q2+Q1)/2]/(P2-P1)/[(P2+P1)/2]

 

で計算することができる。

この弾力性が1よりも大きいときは弾力的、1よりも小さいときは非弾力的という。弾力性が1のときは単位弾力的であるという。

 

・総収入と需要の価格弾力性

総収入とは財の買い手が支払う金額であり、財の売り手が受け取る金額である。

総収入=P×Q

で表される。この総収入の価格に対する変化は、弾力性に依存する。

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非弾力的であれば、価格と総収入は同一方向に変化する。

弾力的であれば、価格と総収入は反対方向に変化する。

単位弾力的であれば、価格が変化しても総収入は一定に留まる。

 

・需要の所得弾力性

需要の所得に対する変化を以下の式で表す。

需要の所得弾力性=需要の変化率/所得の変化率

 

・需要の交差価格弾力性

ある財の需要の他の財に対する変化を以下の式で表す。

需要の交差価格弾力性=第1財の需要量の変化/第2財の価格の変化率

 

②供給の弾力性

供給の価格弾力性は、価格の変化に対して供給量がどれほど反応するかの尺度である。たいていの市場では、どのくらいの期間を考えるかということが供給の価格弾力性の重要な決定要因である。通常、供給は短期よりも長期で弾力的となる。供給の価格弾力性は、

供給の価格弾力性=供給の変化率/価格の変化率

である。また市場によっては供給の弾力性は供給曲線上で変化する。つまり、ほとんどその財を生産していない場合は弾力性は大きいし、逆にたくさんの財をすでに生産しているときには弾力性は小さい。

 

③需要・供給・弾力性の三つの応用

1.農業の技術革新

農業の技術革新によって、供給量が増加し、供給曲線が右方にシフトしたとする。しかしこの場合に需要の価格弾力性が低ければ、価格の下落の方が販売量の増加よりも大きく、結果として農家の総収入は減少してしまう。

 

2.OPECの失敗

 OPECは1970年代から80年代にかけて彼らの総収入を増やすために、石油の減産を行った。これは短期的には成功したが、長期でみれば彼らの思うように価格を上昇させることはできなかった。これには弾力性が短期と長期でどのように異なるかが影響している。短期的には需給はどちらも非弾力的だが、長期においてはOPEC以外の生産者が増え、燃費の良い車に買い替えることによって、需要と供給は価格により柔軟に対応できるようになる。結果としてOPECの目論見は失敗に終わった。

 

3.麻薬禁止の影響

もしも麻薬を禁止したとすれば、麻薬の供給曲線は左方にシフトし、価格の上昇と販売量の減少をもたらす。しかし麻薬の需要は非弾力的であると考えられるので、これは結果として犯罪者の総収入の増加につながってしまう。そこで麻薬対策に関しては、麻薬の教育が推奨されている。つまり、麻薬の危険性を教えることによって、需要曲線を左方にシフトさせようという試みである。

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