マンキュー経済学 ミクロ編 -10-

-外部性-

この章では市場の失敗の中でも外部性について考える。外部性は、ある活動に従事する人が周囲の人の厚生に影響を与え、その影響に対する補償を支払うことも受け入れないときに生じる。

 

①外部性と市場の非効率性

・負の外部性

汚染物を排出しているアルミニウム工場があるとしよう。一単位の生産ごとに一定量の煙が大気中へ流れ込んでいく。外部性がある場合には、アルミニウムの生産に要する社会にとっての費用は、アルミニウム生産者の費用よりも大きい。その社会的費用は、生産者の私的費用に加えて、汚染の悪影響を受ける周囲の人々の費用を含む。この場合、市場では社会にとっての最適生産量Qoptimumでなく、Qmarketで均衡となる。

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両者を一致させるためには、アルミニウムの生産ごとに生産者に課税を行う必要がある。これを外部性の内部化という。

 

・正の外部性

正の外部性では上記と正反対のことが起こる。外部性の内部化としては奨励金が考えられる。

 

②当事者間による外部性の解決法

コースの定理

この定理は、民間の当事者たちが資源の配分について交渉する際、費用がかからないのであれば、外部性の問題はつねに民間市場で解決され、資源は効率的に配分されるというものである。誰が当初に権利をもっていても、利害関係のある当事者たちは、つねに全員の厚生が改善されて効率的な結果を生み出すような契約に到達できる。

 

コースの定理は取引費用が発生する場合にはうまく機能しない場合がある。

 

③外部性に対する公共政策

ピグー税と補助

政府は市場重視政策でもって外部性へ対応することができる。たとえば課税による外部性の内部化もその一例で、この税はピグー税と呼ばれる。政府による規制よりもピグー税の方が経済学者には好まれるが、この理由を考えてみよう。

 

製鉄工場と製紙工場の二つの工場が毎年500トンの汚水を川に垂れ流しているとする。

 

規制案:二つの工場に汚水の排出量を年間300トンまで減少するよう命じる。

ピグー税案:二つの工場に汚水の排出1トンにつき5万ドルの税を課す。

 

本質的にピグー税は汚染する権利に価格をつけることである。ちょうど市場がある財を最も高く評価する買い手にその財を配分するように、ピグー税は汚染を減少させる費用が最も高い工場に汚染を配分する。よって生産者ごとに異なる費用を考慮して適切に権利を分配できるのだ。さらにピグー税ならば規制量に達した後も生産者は汚染を減少させるインセンティブをもつ。

『経済政策を売り歩く人々』 ポール・クルーグマン

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お茶の間で人気のエコノミストや政策プロモーターたちの主張の誤りを指摘した本。ラッファー曲線ってインチキだったんだ…マンキュー経済学の本でも取り上げられてたけど…確かに何で二次関数の曲線になるかは不思議だったけどね。

マンキュー経済学 ミクロ編 -9-

-応用:国際貿易-

 

国際貿易は経済的福祉に対してどのような影響を及ぼすのだろうか。

 

①貿易の決定要因

・貿易がないときの均衡

架空の国「アイソランド」の鉄鋼市場が世界から隔離されているとしよう。この場合、総余剰は国内需要と国内供給によって決定されている。ここでアイソランド政府は鉄鋼市場での貿易を考慮にいれ、状況の分析を始めた。

 

・世界価格と比較優位

世界市場で成立している価格を「世界価格」という。これと国内価格を比べて、前者の方が高い場合には、アイソランドは鉄鋼の輸出国に、逆の場合には鉄鋼の輸入国になる。

 

②貿易による勝者と敗者

・輸出国の場合

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貿易が開始されると国内価格と世界価格は一致する。図は世界価格が高い場合の市場である。この場合、鉄鋼の国内生産者は高い価格で鉄鋼を売ることができるようになるので厚生が改善するが、国内の消費者は高い価格で鉄鋼を買わなければいけないので厚生が悪化する。つまり、消費者の厚生が生産者の厚生へと転化され、さらに網掛け部分の厚生が追加される。

 

・輸入国の場合

輸入国の場合は上記の例と正反対のことがおきる。つまり国内価格は下落し、消費者は生産者の厚生を横取りし、総余剰は増加する。

 

・関税の影響

輸入材への課税、すなわち関税の影響を考えてみよう。関税は財の輸出国には関係がない。なぜなら誰も財を輸入しないからである。

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輸入国における関税は上記の図のような影響を与える。つまりEが政府収入となり、DとEの部分が死荷重となってしまう。

 

・輸入割当ての影響

アイソランド政府が限定数の輸入許可証を配分するとしよう。すると以下の図のようになる。

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つまり許可証保有者の余剰はE’とE’’だけ増加し、DとEだけの死荷重が発生する。

 

③貿易制限を支持する議論

自由貿易に対する反対にはどのような議論があるのだろうか。

 

・雇用の議論

まず彼らは国内の雇用が失われると主張する。しかしこれは短期的には当てはまるが、長期的には当てはまらない。なぜなら外国はアイソランドとの貿易でアイソランドから他の財を購入するための資源を得ることになるからだ。失業した労働者は長期的には比較優位のある産業に移動すればいい。

 

・安全保障の議論

過度な外国経済への依存は安全保障の面から問題であるとする議論がある。しかし経済学者はこの議論が自らの利益を死守したい生産者に悪用されているのではないかと危惧している。

 

幼稚産業

初期段階にある産業を保護することで、後の稼ぎ頭に育てようとする話はある。しかし実際には将来どの産業が勝ち組となるかを選定するのは非常に難しい。

 

・不正競争の議論

もしかすると他国は鉄鋼産業を手厚く保護しているため、世界市場においてアイソランドは損をしてしまうかもしれない。しかしこの場合にも国内の消費者は安い外国産鉄鋼を享受できるので、結局は得をするのだ。

 

・交渉力としての保護の議論

交渉の脅しとしての保護貿易は実際にはよく使われる。

マンキュー経済学 ミクロ編 -8-

-応用:課税の費用-

 

この章では課税が厚生に与える影響を考えてみる。結論としては書いてと売り手が負担する課税の費用は、政府の収入を上回る。

 

①課税の死荷重

課税による政府の税収は下図1のT×Qで表せる。下図2を見てみよう。課税がない場合の市場における総余剰はA+B+C+D+E+Fで表せる。しかし課税によって総余剰はC+Eだけ減少してしまう。そしてこの部分は政府の収入になるわけでもないので、結果として総余剰は少なくなってしまう。この減少分を死荷重と呼ぶ。

 

このことを例を通して理解しよう。AがBの家を毎週100ドルで掃除する。Aの機会費用は80ドルで、Bの支払許容額は120ドルとすれば、この取

引から40ドルの総余剰が生まれていることになる。ここで政府が50ドルの課税を行うとしよう。こうなるとBがAに払える金額の中で両者とも得をするような取引は存在しない。Bの支払許容額は120ドルだが、仮にその額を払ったとしてもAの機会費用70ドルを下回る。よってAとBは取引を停止してしまい、40ドルの総余剰は失われてしまう。

 

②死荷重の決定

課税による死荷重の大小は需給の価格弾力性によって決まる。

 

a.非弾力的供給→死荷重は小さい

b.弾力的供給→死荷重は大きい

c.非弾力的需要→死荷重は小さい

d.弾力的需要→死荷重は大きい

 

価格に敏感な需要者と供給者のほうが、課税による市場からの退出が増えることになるので、これは当然の結論となる。

 

③税が変化した場合の死荷重と税制

税が大きくなると、死荷重はそれを上回る速さで大きくなる。なぜなら死荷重は三角形の面積であり、税の大きさの二乗に比例するからだ。また税が大きくなると税収の増加はマイナスの二次関数で表される。つまり税収を最大化する税額が存在することになる。

マンキュー経済学 ミクロ編 -6-

-需要、供給、および政府の政策-

 

この章では政府の政策がどのような効果をもたらすのかを分析する。

 

①価格規制

政府は法律である財の「価格の上限」と「価格の下限」を設定することができる。

 

1.価格の上限

価格の上限は均衡価格よりも高く設定される場合と、低く設定される場合がある。前者の場合は市場に影響を与えることはない。しかし後者のときには市場は均衡価格に到達せず、それよりも低価格で取引されることになるので、超過需要と過少供給が生じる。

ケーススタディとして、「短期と長期における家賃規制」をみよう。家賃規制の影響は長期においてより強く表れる。短期においては供給側は価格に反応して供給量を調節することはできないが、長期においてはより柔軟に価格に対応した供給量が選択され、結果として住宅不足が顕在化する。

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2.価格の下限

価格の下限も均衡価格より高く設定される場合と低く設定される場合があるが、今回は後者が市場に影響を与える。均衡価格よりも高く取引されることになるため、財の余剰が生まれてしまう。

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②税金

政府がある財に課税を行うとき、その税額を負担するのは売り手と買い手のどちらだろうか。これは単純に法律を調べることで答えを得られるような単純な問いではない。経済学者はこれを「税の帰着」という用語で議論する。

 

・買い手に対する課税

ある財の市場で政府が買い手に0.5ドルの課税を定めたとしよう。これはどのような影響を市場に与えるか。

1.課税はまず需要曲線を0.5ドル分下方にシフトさせる。

2.新たな均衡では取引量は減る。均衡価格は2.8ドルへ下がる。

3.これは元の均衡より取引量が0.2ドル低いので売り手の厚生を悪化させる。さらに買い手は3.3ドルを払うので彼らの厚生も悪化する。

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・売り手に対する課税

今度は売り手に対して課税をしてみよう。するとどうなるだろうか。

1.供給曲線は上方へ0.5ドル分シフトする。

2.新たな均衡では取引量は低下し、均衡価格は上昇する。

3.ここでも買い手は3.3ドルを払い、売り手は2.8ドルの売り上げを得ることになる。

 

これより売り手と買い手への課税が同等の意味を持つことが分かる。

 

・弾力性と税の帰着

税負担の分配は需要と供給の価格弾力性によって決定される。需要が非弾力的なときは買い手が税を多く負担し、供給が非弾力的なときは売り手が税を多く負担する。

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マンキュー経済学 ミクロ編 -7-

-消費者、生産者、市場の効率性-

 

この章では厚生経済学のトピックである、資源配分が経済的福祉に与える影響を考える。この章の結論は「市場均衡価格が最も良い価格である」というものである。

 

①消費者余剰

まずは買い手が市場に参加することで得られる便益を見てみよう。

 

・支払許容額

個人がある財に対して支払ってもよいと考える最高額を「支払許容額」という。これは買い手の財に対する評価額と考えることもできる。例えば消費者Aが支払許容額100ドルの財を80ドルで手に入れたとすれば、彼は20ドルの消費者余剰を得たことになる。

 

消費者余剰はその財に対する需要曲線と関連している。需要曲線は支払許容額から導くことができる。需要曲線で表された高さは「限界的な買い手の支払許容額」を示している。以下の表では財が4個のとき、需要曲線の高さは限界的な買い手であるDの50ドルであり、財が3個の場合の需要曲線の高さはCの70ドルである。

 

この需要曲線を用いて、消費者余剰を計測できる。つまり、需要曲線よりも下で価格よりも上の部分の面積は、市場の消費者余剰になる。

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・価格の下落と消費者余剰の増加

価格の下落は買い手の厚生を改善させるが、それはどの程度なのだろうか。それは以下のグラフのようになる。

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ほとんどの場合、消費者は彼らの合理性に基づいて購入する財からどれだけの便益を得るかを判断する最良の審判である。

 

②生産者余剰

次は生産者の視点から考えよう。どの生産者も市場価格がその財の提供に要する費用(機会費用)を上回れば市場に参加したいと考えている。たとえば生産者Aが500ドルで財の提供を行ってよいと考えていたときに、600ドル支払われれば、彼は100ドルの生産者余剰を得たことになる。

 

生産者余剰は供給曲線と関連している。これは需要曲線と同じように、限界的な売り手の費用を表している。そして生産者余剰は、価格よりも下で供給曲線よりも上の部分の面積として求めることができる。

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・価格の上昇と生産者余剰の増加

価格の上昇は以下のグラフのように生産者余剰を増加させる。

 

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③市場の効率性

自由市場によって決定された均衡価格は最適な資源配分となっているだろうか。経済的福祉の指標の一つとして、総余剰がある。これは消費者余剰と生産者余剰の合計であるが、それを求める式は以下のようになる。

 

消費者余剰=買い手にとっての価値-買い手が支払った価格・・・①

生産者余剰=売り手が受け取った価格-売り手の費用・・・②

総余剰=買い手にとっての価値-買い手が支払った価格+売り手が受け取った価格-売り手の費用

買い手の支払った価格と売り手が受け取った価格は等しいので、

 

総余剰=買い手にとっての価値-売り手の費用

 

となる。ある資源配分が総余剰を最大化しているとき、その配分は効率的であるという。さらに消費者と生産者の間での経済的福祉の分配割合の公平さを衝平とよぶ。

 

・市場均衡の評価

市場均衡における総余剰は、均衡点までの供給曲線と需要曲線の間の総面積で表される。市場では

1.自由市場は支払許容額で測ったときに最も高い価値をつける買い手に財の供給を分配する。

2.自由市場は最も低い費用で生産できる売り手に財の需要を配分する。

したがって、自由市場は、消費者余剰と生産者余剰の合計を最大にするような財の量を生産する。